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徳川光圀(みつくに)ってこんな人だったの!? 本屋大賞を受賞した前作『天地明察』が映画化されるなど、いま注目の人気作家が新作『光圀伝』(角川書店)を刊行した。テレビドラマで広まった「黄門さま」の印象を吹き飛ばす壮大な一代記で、またまた話題を集めそう。昨年の原発事故で、福島市の自宅をしばらく離れたが、原稿は一度も落とさずに書き続けた。時代小説にかける思いを聞く。(文・篠原知存)
--なぜ光圀を
冲方 『天地明察』に、主人公の後援者として登場させたんです。テレビドラマで有名だし、人物像についても、みんな知っているものだろうと思ってたんですが、担当編集者が「こんな光圀見たことない。次作はこれで!」って。「ああ…いいかもしれないですねぇ」とか言ってたら、本屋大賞の授賞式でいきなり予告ビラを配られて(笑)。
--あはは。でも、本当に強烈な一代記です
冲方 当初は「大日本史」を編纂(へんさん)した人物として書こうと思ったんですけれど、本格的に調べはじめると、途方もなく多彩な側面を持っている。これは全部書かないと書いたことにならないぞ、と思えてきて。それに、歴史上の謎とされている紋太夫(もんだゆう)殺害ですね。光圀はなぜ家老を殺したのか。これは小説では避けて通れないチャレンジなので、もう思い切って。
--どこまで創作なんですか。たとえば光圀が辻斬り!?とか思えますが
冲方 辻斬りは事実でしょう。光圀自身の話を家臣が記録していて、前後関係や時刻、場所も具体的です。書くにあたっては、可能な限り事実を…というより、大量の逸話からどれをどう選ぶか、という感じでしたね。明らかに僕の創作というのは、宮本武蔵を出したところ。当時の武士たちが置かれた状況を描くのに、武蔵と沢庵(たくあん)、山鹿素行(やまが・そこう)の3人と光圀とのシーンは欠かせなかった。武蔵と光圀は会っていてもおかしくないんですよ。ただ、記録はない。ま、ないので、それをいいことに(笑)。
--あ、逆に記録があると飛躍しにくいとか…
冲方 そのまま書くしかないですよね。でも、心情をどう読み解くか、というのは残るわけです。辻斬りにしても、単に無宿人を殺した-というだけでは意味がわからない。どういう青春で、どんな社会環境で、どういう流れでそうなったのか、そういうところを書いていく。
--と、そのうちにキャラクターが浮かび上がる?
冲方 いや、ずっと謎でした(笑)。この人、基本的にやってることが矛盾してるんですよ。悪い意味ではなくてね。文芸に傾倒し、学問に励み、藩主の仕事もこなし、すごい武人でもある。交友も広くて、大名から商人、僧侶、学者…わけがわからない。家康の孫という、当時の階級社会で頂点にいる人間が、町の居酒屋で飲んでるし。
--読んでイメージがガラッと変わりました
冲方 光圀って、時代によって描かれ方が違うんですよ。江戸期の「漫遊譚(まんゆうたん)」なんて、黄門さまが悪人をバッサバッサとぶった切ってて…すけさんも印籠もいらないじゃん(笑)。それが時代を経て、刀を持たなくなったり、忍者やヒロインが登場したりするわけです。僕の『光圀伝』もたぶん、現代ならではの書き方になっています。
--というと
冲方 一昔前だと、たぶん光圀は善人でなきゃいけなかった。だからご老公が殺す相手の紋太夫は、必然的に悪党として描かれた。でもいまは、人間の矛盾というものも、エンターテインメントとして受け止められる時代でしょう。それに、僕がひとりで見つけたというよりは、水戸に取材に行ったりしていろんな人と出会い、いろんなものをいただいて、生まれた作品だと思っています。
【プロフィル】冲方丁(うぶかた・とう) 昭和52年、岐阜県生まれ。35歳。大学在学中に『黒い季節』で作家デビュー。『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞を受賞。吉川英治文学新人賞、本屋大賞などを受賞したベストセラー『天地明察』が映画化されて全国公開中。3部作でアニメ化された「マルドゥック・スクランブル」の完結編も今月末に公開が迫る。