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日本航空(JAL)の稲盛和夫名誉会長が2012年10月23日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で講演し、業績回復の背景について語った。稲盛氏は、社員の意識改革の重要性を繰り返して強調した。その上で、日本の多くの経営者について、企業戦略を社員に説明する努力が足らない点を「心からの協力を得るのは難しい」などと批判した。
また、日本のエネルギー政策については、政府が打ち出している「原発ゼロ」については否定的な見解を示し、自らが推進している太陽光発電についても「メジャーなエネルギーにはなり得ない」と述べた。
■「日本の経営者の多くは、目に見える財務指標や事業戦略に気を取られている」
JALは2010年1月に経営破たんしたが、12年9月には異例のスピードで再上場を果たした。官民ファンドの企業再生支援機構から受けていた3500億円の出資については、
「約3000億円をプラスして返すことができた。国家財政が厳しいなか、少しは国にお役に立てたのではないか」
などと述べ、公的支援で法人税が減免されるなどして業績が回復したことに対する批判には、
「これは先進国で一般的な制度で、特別JALが優遇された訳ではない」
と従来の反論を繰り返した。
業績回復の要因については、
「一義的には、金融機関や株主の犠牲があったから」
としながらも、
「社員の意識やJALの社風が大きく変わり、結果として全社員が、それぞれの現場で『自分の会社を少しでも良くしよう』と必死に努力を重ねてくれたことがV字回復の最大の要因だと思っている」
と、経営理念を定めた上で、社員の意識を変えることの重要性を繰り返した。その一方で、
「近年では、日本の経営者の多くは、目に見える財務指標や事業戦略に気を取られているのではないか。例えば、記者を集め、本社の事業スタッフがつくった事業戦略を、まるですぐにでも実現できるかのようなプレゼンテーションを行っている人もいる」
と、「理念なき経営」を批判。
「それを実行する社員は、その詳しい内容を知らないケースもあるのではないか。それでは、社員の心からの協力を得るのは難しいはず。もし、その事業戦略を必ず実現しようとするならば、その意義や目的、達成までの方法などを、経営トップが現場に出向き、現場の社員が心の底から『それをやり遂げたい、必ずできる』と思うようになるまで話し込まなければならないのではないか」
などと、経営戦略の意義を社員に説いてまわることの重要性を繰り返した。
■「太陽光発電については、私は最も日本で先駆けてやってきた技術屋」
エネルギー問題については、
「何とか原発なしで高度な文明社会を維持していくことでできればいいが、現在の科学技術では、私はそれは不可能だと思っている」
と、政府が掲げた「原発ゼロ」には否定的な見解を示した。
稲盛氏は京セラの創業者としても知られ、同社グループは、12年8月に稼働を始めた「ソフトバンク京都ソーラーパーク」などの太陽光発電所の建設に携わっている。
だが、当の稲盛氏は、
「太陽光発電については、私は最も日本で先駆けてやってきた技術屋。現在日本で一番生産量も多いし、設置をしているのが京セラの太陽光発電」
と自負を見せながらも、
「メジャーなエネルギーにはなり得ないと思っている」
と、太陽光発電は補完的な役割にとどまるとの認識を示した。その上で
「原発は、必要悪として、どうしてこれをコントロールして使っていくかに力を入れなければならないのでないかと思っている」
原発のリスクや廃棄物の処理を含めた情報開示の徹底を求めた。