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「ホンマかいな?」と突っ込みたくなるような話、信じられないようなエピソードなど「嘘みたいな本当の話」を全国から集め、思想家の内田樹さんや作家の高橋源一郎さんが講評する、という催しが、神戸市東灘区にある内田さんの道場兼自宅「凱風館」で開かれた。
東京の出版社「イースト・プレス」の企画で、嘘みたいな本当の話を全国から募集し、応募作をまとめて昨年6月に書籍化。今年7月には第2弾を出版した。
今回はその“番外編”で、7月から話を募集。会場には、応募で寄せられた作品と当日持ち込まれたものを合わせ71話が集まった。このうち21話について、書籍版の選者も務めてきた内田さんと高橋さんが朗読するとともに講評を加えた。以下は会場で朗読された主な作品と講評。
■「なみだ」
空港で一足先に帰国する婚約者を見送った。後ろ姿がゲートの奥に消えていくのを見届けて、駅に向かって歩き始めた時、ふいに涙が出てきた。少し淋しかったが、ほっとしてもいた。ちょっとした感情の揺り戻しだろう。婚約してもう1年以上。結婚を先延ばしにしてきたのは私だった。理由はいろいろあったが、この旅行で何かが変わったのか、変わらなかったのか。
市内へ向かう電車の中でも涙は止まらなかった。電車を降りて、ホテルへ向かって歩いている間も泣いていた。心は無力感で辛くも悲しくもないのに、涙だけが勝手に出てきた。ほかの誰かが私の体を借りて泣いているようだった。
ホテルに戻ってからも涙は続いた。塩気のきいたサンドイッチで遅い夕食を済ませて、とにかく眠ろうと思った。時々、目が覚めると泣いた。涙は流れ続け、朝になってやっと落ち着いた。半日以上も泣いていたことになる。さすがに疲れた。
2週間後、仕事を終えて、帰国すると、彼から電話があった。『こんなに泣き続けたのは人生で初めて』と話して、『変よね』と笑った。彼は一瞬黙った。そして『ごめん。婚約はなかったことにしてほしい』と言った。『ほかに好きな人ができた。帰国した僕を迎えに来てくれた人がいたんだ』。その時、あの涙はもう一人の私が泣いていたのかと、気づいた。本当の自分はもう知っていた。空港で見送った時にすべてが終わったことを。泣きたい気がしたが、涙は出なかった。
(ちかこ)
-内田さん(以下、内)「不条理だよね。空港で見送った時にはわかってたんだろうねゃうよね」
-高橋さん(以下、高)「男は浮気するとやましさがあって必ず優しくなるよね」
■「いつからの恋?」
幼少期より同じテーマについてばかり話し続けている私は、周囲の皆から『あなたは心を病んでいるのではないか』と言われている。
先日、旅先のバーで一人飲みをしていたら、突然『結婚してください!』と言われた。振り向くと女性がいた。見知らぬ女性からのいきなりのプロポーズを奇妙に思いながらも、一呼吸置いて、『あなたは八ヶ岳山麓が好きですか?』といつものテーマで尋ねると『好きです』と答えが返ってきた。
現在、私たちは結婚して八ヶ岳山麓でに空気が澄んでいると言われている○○地区に住んでいます。お月さまが綺麗に見えます。
(佐々木悟)
-内「奥さんに結婚してくれって突然言われたんですか」
-高「もしかしたら壮大な何かに仕組まれているのかもしれないよ」
■「エチケット」
電車の隣の席でうら若き女性2人組がしゃべりながら慣れた手つきで化粧を始めた。
まもなく、読書に集中していた私の耳に突然の不協和音がひびく。聞きなじみはあるが、決して表舞台に出ることはないモーター音と、次の瞬間!
ジョリジョリ… ジョリジョリジョリジョリ
-高「ジョリジョリってかなり剃れてる音だよね」
-内「男はしないよね。女の人は化粧したり、ご飯食べたり楽屋状態だよね」
■「医療界の名探偵コナン」
『この中にお医者様はおいででしょうか』ピンポンパンポンと機内で病人が出たときのアナウンスを、これまで僕は飛行機で10回以上、新幹線で1回、在来線で1回受けています。こないだブラジルに行ったときは、行きに1人、帰りに1人病人が出ました。ホントです。人は僕を『医療界の名探偵コナン』と呼びます。(これはウソ)
(岩田健太郎)
-高「これ一回聞いてみたい」
-内「聞いたことないよね」
■「人を確かに記憶する最良の方法-大学生篇」
私が大学院生だったかれこれ30年前ですが、尊敬するゼミのA教授がパートで行っている某私大で学年末試験の実施を手伝うように言われ、ゼミの仲間と2人で行きました。
一般教養科目でテキストの持ち込みは可でしたが、教授が徐(おもむろ)に黒板に書いた試験問題は、なんと、この教授の著書で3500円もするテキストですが、その前書き・後書き・本文・脚注の中に、アインシュタインの名前は何回出てくるか、という一問だけでした。私は驚愕しましたが、階段教室を前から後ろまでびっしり埋め尽くした何百人の学生たちは待ち構えたように黙々と数え始めるではありませんか。
これが大学4回生も選択している講義の学年末試験かと呆れるやらで、これまでの教授に対する敬意は完全に失いました。これは学問への冒涜だと、正義感に燃える私が立ちすくんでいると一人の男子学生が挙手しているので、やはりあまりのバカバカしさに異議を訴える学生も一人はいたかと安心し、その学生に聞くと、「アルファベットで書かれた分も数えるのですか?」と言いました。そこで仕方なく教授に聞くと「そうです」という答え。90分の試験が終わり、解答用紙を回収していると、別の一人の男子学生がやおら教卓の教授に早足で詰め寄るので、やはり骨のある学生もいたかと注目すると、「(名前は)いくつあるんですか?」と聞いていました。すると教授が「まだ、数えてない」と無愛想に言い放つと学生は一礼してお行儀よく帰っていきはりました。
義憤に燃えた私は今日のこのバイト代は教授につき返して一言苦言し、今後このゼミに出るのは辞めようと心に誓ったのです。しかし私は結局3万円という高額のバイト代の入った紙袋を受け取るやたちまち惜しくなり、つい流れで懐に入れてしまいました。あまつさえ誘われたら断り切れず、いつものように梅田で教授のおごりの酒にも終電過ぎまで付き合い、2万円のタクシー代までもらって(5千円で間に合うのに)千鳥足で帰りました。私もあの学生たちを笑えないですね。トホホ…
(アルバート一石)
-内「いい先生じゃないですか。この試験はどういう試験か考えなさいってことだと思う」
-高「アインシュタインの名前が何回出てくるか、ってこれは何の意味があるんだろうね」
-内「深いわけがあるんじゃないかな」
■「超過密ハーレムな時間」
ゲリラ豪雨の影響で運転を見合わせていたJR横浜線が、ようやく運転を再開。もみくちゃになりながら乗り込んだ車内は、超満員である。
ふと気がつくと、目の前に推定20代の女性が3人いた。超密着状態である。
痴漢と間違えられるとマズイので、カバンを抱えながら、何とか体を反転させる。
ところが、反対側にも推定20代の女性が3人。たがいに面識はないようで、OL風の人もいれば、女子大生風の人もいる。
偶然にも、推定20代の女性が私を取り囲んでいる。しかも、体表面の密着であったり、衣服の微妙な触れあいであったり、それぞれにさまざまな部位を私の体と接触させている。
土砂崩れなどを警戒してか、『路線の安全確認のため・・』というアナウンスがあり、電車は超徐行運転である。自分史上最高に超過密でハーレムな時間は、隣のターミナル駅まで、およそ15分間であった。
(根本うるお)
-高「偶然にも6人に囲まれた。こういうシチュエーションいいなあ」
■「パリのマグロ」
20年以上前の話です。いろいろあって、ヨーロッパ周遊中、友人と別れて1人、マドリッドからパリまで夜行列車で移動することに。1人で外国を旅するのはこの時が初めて。マドリッド・チャマルティン駅に行き、チケットを買うために窓口に並んでいると、列の前の方から伝言ゲームのようにして、「途中のトンネルが壊れて通れないらしい」という情報が。私は英語をろくに話せなかったため確認もできないまま、とりあえず窓口で「パリまで」と言ってみたらチケットを売ってくれたので、(なんだ、さっきの話は本当じゃなかったのか)と安堵し、無事、夜行列車に乗り込むことができました。
列車が走り始めて数時間後の深夜、ある駅に停車し車内アナウンスが。もちろん私には聞き取れませんが、それを聞いた乗客が一斉に荷物をまとめて下車し始めました。どうやら車内に残る人はいなさそうだったので、私も分かったようなふりをして車外へ。駅から出るとバスが何台か待っており、列車の乗客は皆そのバスに乗り込んでいきます。(ははあ、さっきのトンネルの話は本当だったのか)。私たちはトンネルを回避してバスで移動するようでした。バスは数時間高速を走ってどこかの駅に着き、そこでまた列車に乗り換えて早朝のパリへ。
パリ・リヨン駅のホームに降りたところで、同じ列車に乗っていた同年代くらいの日本人男性に声をかけられました。「列車大変でしたね! 今日パリで泊まられるなら、晩ご飯一緒にいかがですか?」。私も1人で不安だったので、誰かと一緒にご飯が食べられるならと、ホテルにチェックイン後、夕刻に待ち合わせて食事に行くことに。
その日本人の方は大学院生で、スイスのCERN(欧州合同素粒子原子核研究機構)での研修を終えた帰りに旅行をしているとのことでした。(え、すごい…。でも本当かな…)。約束どおり、カルチェ・ラタンのカフェで食事をしたあと、「同じ宿で知り合ったおもしろい日本人の方がいるので、一緒に来ませんか?」という話に。普段なら初対面の人には絶対について行かない私も、一人ぼっちの寂しさに負けて、一緒に行ってしまいました。
ホテルには本当に、私たちよりも少し年上の日本人男性がいて、その方は「高額な遺産を相続したので、それをスイス銀行に預けにきた帰り」ということでした。(これは怪しい… 帰ったほうがいいか? それとも…)。迷っていると、「これから市場にマグロを買いに行って、刺身を作るので、一緒に行きましょう」ということに。
私は迷いながらもズルズルと2人と一緒に市場へ行き、マグロのトロとレタスを買って、今さら帰るとも言えずにまた2人のホテルへ。部屋に戻ると、“スイス銀行の人”が荷物からナイフとたまり醤油を取り出し、洗面所をまさに「血の海」にしてさばいていきます。その間、私と大学院生さんは、アルミホイルでお皿を成形し、レタスをちぎります。刺身が完成したところで、アルミホイルのお皿にたまりを入れ、レタスをツマに3人でトロ刺しを堪能しました。味は…すごくおいしかったです。
食べ終わった私は、とくにナイフで惨殺されることも、襲われることもなく、「ごちそうさま。ありがとうさようなら。よい旅を!」と2人に言って、自分のホテルに戻りました。
その後の“スイス銀行の人”の消息は知りませんが、大学院生さんとは日本に帰って1度だけお会いしました。本当に某大学の大学院生で大変な秀才さんでした。
(Astro-jp)
-内「“スイス銀行”は嘘だよね。これかなり怖いね」
-高「警戒心がちょっと薄いよね」
■「もう二度と会えない人」
1980年。中学3年生のときの出来事。その日たまたま用事があって放課後、家とは反対方向の商店街を歩いていたとき、偶然出会った友達から「向こうの店に有名人がいる」と声をかけられた。横須賀の田舎町でそんな僥倖は滅多にあるもんじゃないと、教えてもらったバイク店に息せき切って駆けつけると、黒の革ジャンにレザーパンツといういでたちのテレビで見慣れた俳優さんの姿があった。持っていた家庭科のノートの裏表紙にサインをもらい、ついでに握手もねだったら、「あとで」と断られてしまったが、その時のドスのきいた低音ボイスはまぎれもなく松田優作さんその人だった。
(森田祐子)
-内「僕は偶然有名人に会ったことないなあ。偶然会うってお得感があるよね」
(無題)
生年月日の近いアイドルがいました。中学生の頃夜ごと夢の中でそのアイドルとして生きている場面を見ました。
二十歳になった時、彼氏とケンカ別れし、1カ月後に再会しました。その間、彼氏はそのアイドルと浮気していたそうです。
ドラマに出ている彼女を見ながら、こんな接点があるとは…と複雑でした。夢がかなったのかな。
(田舎の娘)
-高「これ本当なのかな」
-内田さん「わかんないよ。アイドルのことで嘘つく男けっこういるし」
■「嘘みたいな本当の話」
原型は、アメリカの作家、ポール・オースターがラジオ番組の企画として「紙に書き付けたいという気になるほど大切に思えた体験」を募集し、入選した作品を彼自身が朗読するというプロジェクトで、その話を集めて本も出版された。これをもとにイースト・プレスから「日本版」の制作を持ちかけられた内田さんが、高橋さんを誘ってプロジェクトを始動。昨年6月に149話を収録した第1弾「嘘みたいな本当の話『日本版』ナショナル・ストーリー・プロジェクト」を発行した。