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米空軍の展開や規模を理解する3D(3次元)ゲームに、実物の武器、医療チームの最新訓練機器―。それをいくらでも写真に収めてもいいというので、驚いた。ニューヨークで開かれている「空軍ウィーク」の会場だ。
会場は、マンハッタンの西側に流れるハドソン川桟橋にあるイントレピッド海上航空宇宙博物館。海軍の空母イントレピッドを博物館に改良したもので、空軍ウィークは、空母が係留される埠頭全体を使って、8月19日から3日間開かれた。
驚かされるのが、兵士や士官、武器、装備類に対する市民の親近感だ。
イントレピッドは観光名所タイムズスクエアにも近く、現在はスペースシャトル「エンタープライズ」を展示しているため、いつも家族連れで賑わっている。しかし、空軍ウィークは通常の2倍近くの人出になるという。
兵士に対し、市民が出身地を聞いて、同郷だと話し込んだり、子どもが戦闘車両に乗せてもらい、親が写真を撮ったりというのは当たり前の光景。まるで遊園地にいるような雰囲気だ。2009年に戦艦ニューヨークが寄港した際も、同様のイベントが開かれ、海兵隊が銃器や装備まで子どもに持たせてくれるサービスをしていた。もちろん、どれほどの重さか知るために、大人にも大人気のコーナーだった。
今回は、ただ装備をみせるだけでなく、空軍の活動や、装備の役割を分かりやすく紹介するため、「コマンド・センター・アルファ」という、3D映像を使った教育センターすら設けられていた。入り口で渡されたiPadとイヤホンを付けて、センターに入ると、壁一面にさまざまな装備や戦闘シーンの3D映像がある。そこのコードをiPadに認識させると、それぞれ音声の説明が聞けるという仕組みだ。例えば、兵士の映像の前では、装備の一つ一つについて説明を聞けるし、輸送機の映像の前では、中でどんな形で待機し、上陸の際にどんな装備を使うかも仔細に分かる。一番人気があったのは、輸送機からパラシュートを使った上陸シミュレーション映像だった。
ハイライトは、空軍デモチーム「サンダーバード」の「F16ファイティングファルコン」6機による空中デモだ。3日間で初日の式典と、大リーグのヤンキース戦、メッツ戦の3回に飛行を展開した。
ハイライトを仕切るサンダーバード・エグゼキュティブ・オフィサーのジョシュア・ホーキンス大尉は、チームの役割についてこう説明する。
「市民が見たこともないF16 の性能を見せて、それを知ってもらうのが目的。それには訓練の積み重ねと、ニューヨークのような忙しい都会では、事前の調査とシミュレーションが欠かせないが、空軍と市民の対話のためには大切なこと」
大尉によると、F16の一回の飛行にはパイロット以外に約120人の手がかかっており、会場では、22に分かれた空軍におけるキャリアを理解してもらい、リクルートにつなげるのが狙いだという。では、市民の反響はと尋ねると、大尉は満面の笑顔になった。
「すごい反響だ。ツイッターやインスタグラムで写真がたくさん出回っていた。これこそが、あらゆる空軍の職域で働くみんなのチームワークを示すもの」
技術コーナーの士官もこう説明してくれた。
「特に子どもたちが大切だ。子どもに理解してもらわなければ、誰が爆発物探知ロボットのようなものを作る科学者になろうと思うだろうか」
私が訪れた日は、子どもと言っても小学生になるかならないかといった子が多く、感想を聞いても「分からない」という程度。しかし、親の方は「滅多に見られない装備が見られた」とみな興奮気味で、笑顔が絶えない。こうした親に連れられて、何度も米軍関連のイベントに行くうちに、子どもも軍隊を身近なものに感じていくようになるのだろう。
そう考えると、空軍ウィークをはじめ、米軍の並ではないイベントへの力の入れ方は、理解ができる。なにしろ、米軍全体で、志願だけで約143万人を集めて、世界中に兵士を送り出しているからだ(外務省、2010年12月31日現在)。
イントレピッドを後にした時には、空軍の携帯ストラップや戦闘機の絵はがき、シールやパンフレットがバッグにいっぱいになっていた。これも、米軍143万人を支える膨大な国防予算から出ているものだと思うと、複雑な気持ちだ。
そして、計11年以上に及ぶイラクとアフガニスタンにおける2つの戦争。ニューヨークで生活をしていると、とても戦争をしている国だと思えないと感じることがよくある。しかし、当事者の米国人の多くはそうは思ってはいない。それが、空軍ウィークのイベントで見た「明るさ」にもつながっている。
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津山恵子(つやま・けいこ) ジャーナリスト
東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、AERAに執筆した。米国の経済、政治について「AERA」「週刊ダイヤモンド」などに執筆。著書に『モバイルシフト「スマホ×ソーシャル」ビジネス新戦略』(アスキーメディアワークス)など